電話占い体験談

駅ビルの美人占い師

女性占い師

話はちょうど1年前にさかのぼります。その日は土曜日で夕刻から地元の友達と会ってお酒を飲む約束をしていたのですが、少し時間に余裕を見て外出しました。最近リニューアルされたファッションエリアで服を見て、その後、駅ビル内のカフェで休憩していました。

時計を見るとまだ4時。待ち合わせの時間まで2時間もあり、どうやって時間を潰そうかと思案していた時、ウィンドウ越しにふと目に止まったのがデパートなどによくある占いのブース。占いとかスピリチュアルとか、いつもはそうした物事にはあまり目が向かないのですが、なぜかその時には興味が湧きました。

カフェを出ると、ブースに近づいて看板を見ました。
「タロット、四柱推命、手相、西洋占星術……今日の占い師、マリア先生。ふ~ん」
横手から何気なくパーテーションで区切られた空間を覗くと、手持ち無沙汰に読書をしている女性の姿が見えました。
(お客さんがいなくて暇なのかなぁ。もしかして、あんまり当たらないのかも)
そんなことをぼんやり思いつつ立ち尽くしていると、急にその女性が活字から目を上げ、私に気づいたのです。同じ年頃の髪の長い人で、目鼻立ちが整ったなかなかの美形でした。
「よろしかったら、どうぞ」
微笑み顔で声を掛けられ、引くに引けない形でブースの中へ招き入れられました。
(まぁ、いいか。お給料出たばかりだし、見料も3千円だし)
腹を決めて椅子に座り、美人占い師さんと向かい合いました。

「今日はどのようなご相談でしょうか」
あいかわらず微笑みを絶やさぬまま優しい声で問われ、
「えーと、とくに悩みはないんですが、何となく全体的な運勢とか見てもらえますか?」
「分かりました。では、まず生年月日と生まれた場所を教えてください。もし生まれた時間もお分かりならそれもお願いします」
生年月日時と出身地を伝えるとマリアさんは目の前のノートパソコンを開き、何やらデーターを打ち込み始めました。
「まずホロスコープでの全体運を拝見します」
それから少しして画面を私の方へ向け、専門のソフトで算出されたらしき占星術の天体図を指差しながら説明を始めたのですが、その話を要約すると現在、木星の影響を受けて金運、対人運ともに幸運期にある、とのことでした。その際に指摘された私の性格や仕事の状況などがかなりの確度で当たっていたので、幸運期についての話も素直に信じることができました。
「失礼ですがご結婚は?」
「未婚です」
「お付き合いされている方はおられますか」
「何となくそういう人はいたんですが、少し前に別れました。喧嘩をしたとかじゃなくて自然に疎遠になった感じです」
「そうですか。星の運行を見ると新たな出会いの暗示が出ているのですが、気になる男性などは?」
言われてしばらく考え込みました。気になると言えば、同じ職場で働くMさん。すでにカノジョがいるため、自分の中では諦めていた相手だったのですが、急に「もしかしたら脈があるかも」と虫の良い考えに走りました。
「いることはいます。でも、彼氏にするのは難しいかな」
「既婚者ですか」
「いえ、結婚はしていないんですが、カノジョ持ちの人です」
「なるほど。では、一応その男性との関係を占ってみましょうか」
「はい、ぜひお願いします!」

マリアさんは、今度はタロットカードを取り出して占い始めました。こちらは星占い同様、タロットに関する知識もほとんどありませんので、出てきたカードが何なのか良く分かりませんでした。ただ、恋人と死神のカードが混じっていたことだけは憶えています。
「うーん」
マリアさんは少しの間、テーブルに配置されたカードを睨み続け、やがて私の目を見つめて話し始めました。
「結論から言いますと、残念ながらそのMさんという方とのご縁はないようです。今の恋人と別れるようなことは恐らくありませんので。ただ……」
「はい?」
「ただ、ごく近いうちに別の男性から求愛されます」
「どんな人ですか?」
「Mさんとの関わりで知り合いになる人です」
「友達を紹介される、とかですか?」
「いえ、そうではないですね。Mさんに何かアクシデントが起きて、それに絡んで知り合うことになります」
アクシデントとは具体的にどんな事なのか訊いてみると、マリアさんは
「ごめんなさい。そこまでははっきり見えません」
と首を横に振りました。何だかお茶を濁しているような雰囲気にも見えました。
「じつは私、こういった星占いやタロットなどの占いだけではなく霊感でも見るんです。それで今、カードを見つめていたら頭の中にビジョンが浮かんできたのですが、その内容については申し上げた通りです」
「うーん、でももう少し詳しく訊きたいです。どんな男性に求愛されるのかも」
私が思わず身を乗り出した時、メールの着信音が鳴りました。マリアさんに断ってスマホを取り出すと、待ち合わせをしている友達も早めに家を出てすでに駅前にいるということが分かり、さらに彼女の顔なじみらしきお客さんもやって来て、惜しくも鑑定はそこで終わりとなったのです。マリアさんはブースの外まで見送ってくれて、名刺を渡してくれました。
「あらためてお邪魔します。この名刺の番号にお電話すれば良いですか?」
「ありがとうございます。でも、それには及びません。いずれ近いうちにまたお会いすることになるので」
「え?」
きょとんとする私を残して、再びブースの中へ消えたマリアさん。ちょうどそこへ友人がやって来て、その場を離れることになってしまいました。

それから三日後の火曜日、いつものように出勤すると部署内が騒然としていました。バイク通勤のMさんが朝、自動車との接触事故を起こして病院へ運ばれたというのです。午後になって詳しい容態も分かりました。幸い命に別状はなかったものの全治まで1ヶ月近くの入院が必要とのことで、その間、Mさんが担当していた営業ルートの一部を私が代行することになりました。

じつは今、私が付き合っている男性はその代行した営業先の担当者なのです。仕事の話をしているうちに、奇しくも郷里が同じであることがわかり、そこから急に親しくなってプライベートでも会う関係となりました。Mさんに起きたアクシデントのことも含めて、マリアさんの占いは完全に的中したわけです。

しかも話はそれだけでは終わりませんでした。交際が始まってすぐの頃、面白い仕事をしている従妹がいるから会わせたいと言われて彼に連れて行かれたのが、なんとあの占いのブースだったのです。再会したマリアさんは、
「あの時はあいまいな話でごめんなさい。いくら占い師でも、あなたの新しい恋人は私の従兄です、とはやはり言いにくいので」
と、悪戯げに微笑んでいました。