辻占とは
「辻占(つじうら)」とは、古くから日本で行なわれていた占いの一種。もともとは夕方の辻(四つ角)に立ち、通りを行きかう人々の話す内容を基に占うというものでした。かつて四つ辻や橋のたもとは神の世界(異界)への境界にあり、神も通る場所。そこでの会話には神の託宣(たくせん)が宿ると考えられたことから、辻占は誕生しました。また、夕方に占うことから、辻占のことを「夕占(ゆうけ)」ということもあります。
「百辻や四辻や占いの一の辻、占い正しかれ辻占の神」と唱えてから、辻占に入る場合もあるようです。ちなみに現代では、道端で占う易者を辻占(つじうらない)と呼ぶこともあります。
辻占の歴史
辻占は日本で派生したもの。『万葉集』11巻にも【玉桙(たまぼこ)のみちゆき占にうらなへば】と登場し、起源は古代にさかのぼります。江戸時代にこの占いを行なう場合は呪文を唱え、辻占の前に神様に祈っていたようです。また、北斎は江戸時代に辻占図を描き起こしていました。そこに描かれた辻占の女性は柘の櫛を手に持っています。櫛は「奇(く)しきことを告げる」の意であると同時に、「くじ」を表しています。また櫛は、琴の代用ともいわれました。
類似のものに、橋のたもとに立って占う「橋占(はしうら)」もあり、大きな分類ではこれも含めて辻占と捉えていたようです。後に辻占は、道祖神や塞の神の託宣とされるようになりました。
瓢箪山稲荷神社は辻占の総本社
大阪府東大阪市の瓢箪山稲荷神社(ひょうたんやまいなりじんじゃ)では、今もこの辻占が行なわれています。この神社は6世紀ごろの瓢箪型の古墳の上にある神社で、江戸、明治と大流行した「辻占」の総本社。ここでは、さきほどご紹介したものとは占い方が多少異なり、通りすがりの人の言葉から占うのではありません。方法は、まず1~3の数字が記されているお御籤(おみくじ)を引いてから鳥居の前に立ち、お御籤で出た数から辻を何番目に通った人を基に占うのかを決定します。たとえば、お御籤で2が出れば2番目に通った人、お御籤で3が出れば3番目に通った人の姿を覚えて社務所の宮司へ報告に行きます。性別や服装、持ち物、同行人の有無、その人が向かった方角などを詳しく報告をすると、それを基に宮司家に伝えられている数百年来の独特の霊示で吉凶の判断をしてくれるのだそうです。
ちなみに、河内瓢箪山稲荷神社の瓢箪辻占に「副笹」と呼ばれる辻占があります。これは瓢箪型の餅種(最中の皮)の中から、小さな辻占お御籤が出てくるというもの。餅種の色は五行に基づき、「木」は緑、「火」は赤、「土」は黄、「金」は白、「水」は紫の5色になっているとか。カラフルな色合いの瓢箪はとても可愛らしく、人気となっています。
お菓子にも辻占はある
江戸時代には、託宣を書いたお御籤(おみくじ)を辻で売り歩く「辻占売り」も登場しました。お御籤をせんべいに入れた「辻占煎餅」も売られ、この煎餅も「辻占」と呼ばれたといいます。「辻占煎餅」はフォーチュン・クッキーの元祖といえるでしょう。石川県の金沢市には、正月に様々な色合いの辻占煎餅を縁起物として楽しむ風習があり、現在も和菓子店における辻占の製作風景は、年末恒例の風物詩となっています。
日常生活に取り入れられる辻占
二者択一を迫られたときなどにも、辻占は適しています。たとえば、「AとBどちらがいいのか?」「Aをしたほうがいいのか? よくないのか?」といった質問です。行きかう人々の言葉に耳を傾ければ、占いに造詣が深くなくてもきっと答えは得られるはず。日常生活のなかで気軽にできるので、試しにやってみるのもいいでしょう。
たとえば、「転職したほうがいいの?」といった疑問をぶつけた際に、「行き先を変えてもうまくいかないよ」「今よりもっと状況は悪くなる」といった否定的な会話が聞こえてきた場合は転職がうまくいかず、かえって状況が悪化することを示唆しています。反対に「今すぐ動かないと将来後悔する」「やっぱり、変えて正解だったよ」といった行動を後押しする会話が聞こえてきた場合は、転職すべきだということを示唆しているのです。
「交際中の彼と別れたほうがいいの?」といった質問も同様です。「もちろんだよ。今のうちに距離をとっておかないと大変なことになるよ」「やっぱりね。離れて正解」などと聞こえてきた場合は別れた方が良いことを示し、「後悔するだけだよ」「もう一度考え直したほうがいい」などと聞こえてきた場合は別れが凶となることを示しています。
このように辻占は、日常生活のなかでも気軽に占うことのできる占術。簡単に占えるものの、そこで得た診断には深淵なる言葉が隠されており、なかなかに奥深い占術だといえるでしょう。