占いの種類と占術

千里眼せんりがん

千里眼の力

千里眼のイメージ

千里眼(せんりがん)」とは、「はるか遠くのことがその場にいながらにして、手に取るようにわかる力」、あるいは「未来のことを見通す力」といった2種類の意味があります。また「浄天眼」あるいは「透視」と呼ばれることもあります。しかし一方で、千里眼には透視の力はあるけれども、透視には千里眼の能力はないとも言われており、厳密には異なる能力とされています。

千里眼は距離や時間、障害物など全て関係なく、見通せる力ではありますが、透視は障害物を超える能力があるといったところが差異でしょうか。時間やはるか遠くの距離などを超えて見通す場合には、透視ではなく千里眼と言われる場合が多くなっています。さらに言えば、千里眼と近い能力は、透視ではなく予知であるという考え方も一部にはあります。

五術すべてを含めた占術

中国の故事成語であり、「魏書」に記載されている楊逸という人物の話が、千里眼の由来としては一般的に知られています。

楊逸という人物

楊逸は北魏の末に、今の河南省コウ川県である光州の長官として赴任しました。エリートとされている楊家の一族で、当時29歳の青年だったと言います。青年らしく政治に一生懸命取り組む彼を見て、人々は、

「食べることも寝ることもせず、仕事をしているそうだ。」
と感心しきり。兵士が出るとなれば、天候がどんなに悪くてもきちんと見送り、法令も守り、かといって厳しくしめつけて、州の人々を苦しめることもなかったとされています。その後、戦争があり、中国各所で飢え死にする人が多く出ました。もちろん光州も例外ではなく、さらに飢饉にも襲われましたが、楊逸は州の蔵を開いて食料を飢えた人々に分け与えようとしたのでした。

自分達のこと、中央の政治のことを心配した人に楊逸は、
「国を作るのは人であり、人の命をつなぐのは食なのに、飢えさせてどうするのか。これが罪だというのなら罰を受けよう。」
と言って、炊き出しを行ったそうです。

人望も厚く、政治にも真摯に取り組むこの楊逸がなぜ、千里眼と言われていたのか?

その理由として、有名なエピソードが伝わっています。

楊逸が赴任してきてからというもの、以前から訪問の度に、大きな態度で振る舞い、宴会や袖の下などを要求していた軍人や役人の横暴な行為が全くなくなったのでした。お弁当を持参でやってくる役人たちに、料理をふるまおうとしても決して手を出しません。不思議に思った民衆が、料理を受け取らない理由を聞いてみると、
「長官である楊逸は、千里をも見通す力を持っている。とてもごまかせない。こんなことがばれたらどうなるか。」
と答えたと言います。

本当に楊逸は千里を見通す力を持っていたのか?

楊逸には、本当に千里眼という能力があったのでしょうか。

実はこれには、きちんとした理由があったのです。楊逸は民衆をとても大事にしていて、民衆にとって良い国を作りたかったのです。だからいばりくさる、役人や軍人に対しても良くは思っておらず、なんとかしてやめさせたかったのですが、州内は広く、いくら口で注意はしても、自分の目の届かないところで何をやっているのかはわかりません。そこで楊逸がとった行動は、自分の手先の人間を州内のいたるところに置いて、役人や軍人の行動を逐一報告させていたのです。ですから、手に取るように役人や軍人の行動がわかっていたのですね。

要するにスパイです。これにより役人や軍人は震え上がり、「何でも知っている」、「遠くまで見通せる力がある」などと言われるようになったのです。

楊逸のその後

楊逸はその後、戦争のあおりを受け32歳の時に殺されてしまいました。千里眼を持つと言われ、慕われていた楊逸の死を民衆は悲しみ、供え物や花は絶えず置かれていたそうです。

現在、千里眼は特殊能力の中でも、超能力や霊能力としての意味合いが強いですが、元は、人を使ってスパイのようなことをした人の比喩や例えだったのです。しかも、もっと元をたどっていけば、ただ単に目のいい人を表す言葉だったという説もあります。

千里眼の「千里」

千里とは、日本で言うと約3,900kmですが、千里眼の千里はこの具体的な距離ではなく、ただはるか遠い距離、全ての方向、未来、普通の人では見る事のできないはずの距離など、もっと曖昧な意味になっています。

千里眼で有名な人物など

広目天

仏教の天部の神であり、四天王の一体で西方の守護神として作られることが多い。梵名「ヴィルパークシャ」と呼ばれ、このヴィルパークシャというサンスクリット語の意味が、異なった眼、不恰好な眼という意味である。そこから、人とは違う眼、特殊な力を持つ眼=千里眼として解釈されている。この力を使って、世を広く把握し、悪事などを見逃さないと言われている。

千里眼の鬼

台湾などで強く信仰されている、媽祖(そま)と呼ばれる漁業や航海の守護神である女神の、家来の鬼が千里眼という名前である。その名の通り、千里先を見ることの出来る力を持っており、順風耳と呼ばれる地獄耳の鬼と共に仕えている。

御船千鶴子

明治時代の実在の人物。千里眼と称して、鉱脈を発見したり、封筒の中のものを言い当てたりする透視の能力を発揮した。しかし、能力に関して否定的な意見が出る中、自殺してしまう。映画「リング」の貞子の母親のモデルになった人物と言われている。

天狗

日本では、天狗は千里眼の持ち主とされている。

物語の中の千里眼

作家・松岡圭祐の「千里眼シリーズ」の登場人物である岬美由紀。臨床心理士であり、観察眼の凄さからそう呼ばれている。