電話占い体験談

暗闇に光る眼。私の奇妙な心霊体験

心霊体験

話は1年前にさかのぼります。学生時代から住んでいた古いアパートが建て直されることになり、引っ越しをする必要に迫られました。それで昔から占いが好きだったこともあり、これを好機に開運の方位へ移りたいと思い、ある専門家の先生の鑑定を受けたのです。その先生は四柱推命や紫微斗数などの中国系の占術全般に長けた方だったのですが、とくに方位術の効果の確かさには定評があり、移転や長期旅行をきっかけに仕事運が良くなったとか、結婚できたという人が大勢いるとのことでした。

それまで自分なりに本を読んで勉強していたので、方位術についても多少分かっているつもりでした。しかし生半可な素人知識で凶方位に引っ越してしまったら目も当てられないと思い、プロの判断を仰ぐことにしたのです。鑑定は完全予約制で料金もそれなりでしたが、ボーナス直後だったこともあり思い切って奮発してしまいました。その先生の指導で移転先の方位と引っ越しに適した月日が決まり、さっそく次の休日から不動産屋巡りを始めて条件に該当する物件を探しました。

候補物件は10件ほど見つかりました。その全ての間取り図のデーターを先生に送付すると、翌日にメールの返事が来ました。文面には「3件目の××町のマンションが一番宜しいかと思います。部屋の家相が良好なので、ここにお住みになれば良いご縁に恵まれるようになるでしょう」とありました。その物件は、築浅の賃貸マンションの5階にある1DKの角部屋。都営地下鉄に乗り入れている私鉄の駅から徒歩3分で、近くにはコンビニや中規模スーパー、商店街などもある好条件だったので当然、家賃も少し割高でした。でも、食事や服で贅沢をしなければ十分に賄える金額だと判断して借りることを決めたのです。

実際に引っ越しをしたのは翌月の上旬。単身者用の引っ越しパックを利用して、午前のうちに新居へ移りました。内見した時に私が一番気に入った出窓は南東側、南西にはベランダもあるので風通しと日当たりは申し分なく、当日はちょうど気持ちよく晴れた日だったこともあり、明るく落ち着いた室内の雰囲気にしばしうっとりとしてしまいました。

夕方までに荷ほどきを完了し、夕食は近くのコンビニでお弁当を買って済ませました。夜はテレビやPCの回線をつなぐ作業を終えてから入浴。ベッドへ入ったのは午前1時近くだったと思います。新しい環境に頭が興奮していたせいかなかなか寝付くことができず、暗闇の中で何度も寝返りを打っていたのですが、そのうちにふと小さな光が目に付きました。

扉を開け放したままのダイニングキッチンの空間に、ゴルフボールより少し小さいくらいの丸く青白い光がふわふわと浮かんでいました。「えっ、まさかホタル?」ベッドから起き上がると恐る恐る謎の光の方へ近づいてみました。最初はカーテンの隙間から街灯か何かの光が入っているのだろうと思ったのですが、目を凝らしてよく観察してみると、どうやらそれ自体が発光しているようでした。

そのうちに光の玉が分裂しました。「な、何これ!」横に並んだふたつの光球は私の方へ急接近し、腕の長さ2本分ほどの距離でピタリと停まりました。同時に不定形な湯気のような輪郭が床から立ちのぼるように浮かび上がり、瞬く間に人の姿へと変化していったのです!それは髪の長い中年の女でした。簡素な半袖のワンピースを身にまとい、整った目鼻立ちの口許には微かな笑みが浮かんでいました。先ほどまでのふたつの光はいつの間にか女の目の中にピタリと収まり、そのぼんやりとした光を放つ眼球に真正面から見据えられました。

叫ぶ間もなく気を失い、目覚めるとすでに朝でした。昨夜の記憶が甦って思わず身が震えましたが、自分がダイニングの床ではなくてベッドに寝ていることにすぐ気づきました。するとあの女は夢だったの?とりあえずそういうことで納得したのですが、すぐに夢ではないことを思い知らされました。

その夜、仕事を終えてマンションに帰り、部屋のドアを開くと、窓外から光が差し込む薄暗い室内の中央にあの女が立っていたのです。後ろ向きの姿勢から顔だけこちらへ向けてニッコリと笑いかけられ、身体が凍りつきました。そのうちに女の姿は溶けるように消えていき、私は脱力してその場にへたり込みました。

以降、女は毎日のように姿を現すようになりました。しかも夜昼の区別がなく、朝起きて顔を洗いに行くと洗面所の鏡に映っていたり、休日の午後、ベランダに干しておいたシーツを取り込もうとしてめくるとすぐ裏側に座り込んでいたりしたこともあります。そのたびにこちらは腰を抜かして震える、の繰り返し。そんな生活が1週間も続くうちに身も心も疲れ果ててしまい、思い余って方位術の先生へ連絡を入れたのです。居直られると予想したのですが、怒りを抑えてできるだけ冷静に事情を話すと、意外にもあっさりと謝罪の言葉が返ってきました。
「誠に申し訳ない。このままでは私の信用にも関わりますから、数日のうちに必ず伺います」
約束通り、2日後の日曜日に訪問を受けました。先生は和服姿の女性と一緒でした。その人は力のある霊能者とのことで、すぐに室内を見てもらいました。すると、
「その女性、今もここにいらっしゃいますよ。元々この部屋にいた方ではなくて、あなたが引っ越してきた時に付いて来たそうです」
「それって、どういうことですか」
「あなたのお身内です。ヒナコさんとおっしゃる方」
その名を聞いて愕然としました。私が生まれる前に病気で亡くなった、母方の祖母と同じ名だったからです。幼い頃に両親が離婚して私は父に引き取られたので、物心が付いてから生前の祖母の写真を見る機会はなかったのですが、とても綺麗な人だったということは母に会った際に何度か聞いたことがあります。
「お祖母様はあなたの花嫁姿がどうしても見たくて、遠い上の世界から降りてこられたそうです」
朝、現れた時には「おはよう」、夜には「おかえり」「おやすみ」と言ってくれていたのだと思った途端、涙が溢れて止まらなくなりました。しかし、この日を境に祖母の霊はパタリと姿を現さなくなりました。そして霊能者の女性の言葉通り、それから間もなく1人の男性とのお付き合いが始まり、今年の春に結婚しました。

今では月に一度、母の実家の仏壇をお参りするのが習慣となりました。位牌に向かって手を合わせ、「お祖母ちゃん、もう一度出てきて」とお願いしています。