5年前、友人の紹介で出会った男性と結婚し、昨年その夫の転勤について行く形で生まれ故郷の東北の地から神奈川県の海沿いの街へ引っ越しました。おかげさまで現在は愛する夫と息子との3人でとても幸せな日々を送っていますが、ここに至るまでには紆余曲折がありました。その曲折の内容、というか信じ難い因縁話について、少し書かせていただきたいと思います。
私の父方の実家は仙台市郊外にある代々の農家だったのですが、檀家のお寺さんの話では、さらにルーツをたどると江戸時代初期から続く豪農一族の家系に行き着くそうです。隣町にある総本家の蔵には伊達家ゆかりの古文書や古美術の類なども残されており、御先祖様の中には地元の代官の補佐役を務めた人物もいると聞いたことがあります。もっとも私が生まれた頃には実家はすでに農家を廃業し、祖父が残した土地にアパートなどを建ててそれを管理する不動産業で生計を立てていました。父は生まれてから一度も農業に携わった経験がなく、母も普通のサラリーマンの長女です。その間の一人娘として生まれた私は両親に溺愛されて育ちました。
すでに小学生くらいの頃から漠然と、このまま弟が生まれなければ将来は自分がお婿さんをもらって家を継がなくてはいけないのかなと考えていました。しかし20歳の誕生日を迎えた日に、父からいきなり衝撃的な話を聞かされたのです。「結愛は大学を卒業したら、いったん群馬のジイちゃんの養子になりなさい。この家に住んだまま、苗字だけ変えるんだ。もう向こうには話をつけてあるから」群馬のジイちゃんというのは母方の祖父のことなのですが、それにしても突然、何を言い出すのかと驚きのあまり声も出ませんでした。すると父はうなだれたまま私の肩を抱き、「信じてもらえないかもしれないが、そうしないとね、おまえは一生結婚できないんだよ」とさらに驚くべき言葉を漏らしたのです。
生まれて初めて聞かされたその話を要約すると、我が家の血筋に生まれた女の子は代々、嫁に行くことができない。縁談話などが持ち上がっても途中で邪魔が入って必ず破談になるし、恋仲になった相手からも必ず捨てられる。さらに万が一、結婚できたとしても必ず数年以内に夫が亡くなり、寡婦として出戻ってくることになる、というのです。そのような理不尽な出来事が江戸時代から昭和の初期に至るまで例外なく綿々と続き、戦後になってようやく私の曾お祖父さんが対策を講じたそうです。それが我が家に生まれた女の子をいったん他家の養女にして、そこの家から嫁がせるという方法でした。またこれもまた初耳でしたが、父の2人の姉、つまり私の伯母たちもそういう形を取って結婚し、無事に家庭を作ることができたのだと聞かされました。
突拍子もない話でしたが、以前からスピチュアル系の話題が好きでその手の話にも免疫があった私は、意外にあっさりとその事実を受け入れることができました。(これって多分、本でよく読む「先祖因縁」ってやつだよね)そう確信し、父に訊いてもさっぱり分からない謎の因縁現象の原因を突きとめるべく、まずは先祖代々のお墓がある菩提寺を訊ねてみました。しかし我が家の特殊事情について知っていた先代の住職はすでに亡くなっており、真相を探る手掛かりを知ることはできませんでした。
次に私は、今も東北地方の各地にいるイタコやオカミサンなどの伝統的な霊媒祈祷師の元を何人か訪ね歩きました。全部で5人の霊媒師に見てもらったのですが、結論から言うとこちらもまるで埒があきませんでした。どの人も言うことがとても曖昧で、どうにでも取れる答えしか返ってこなかったのです。しかしそれでもなお諦めず、本物の霊能者探しを続けました。ネットで情報を検索したり、霊能者名鑑という出版物で調べたりした結果、最終的に辿り着いたのが電話やメールで鑑定をしてくれる1人の女性霊能者でした。その方は現在、霊感占いのお仕事をお休みしており、ここで実名を出すことで何か差し障りがあるといけないので、仮にハルカ先生とさせていただきます。当時、このハルカ先生は東京在住だったので、取りあえず電話で鑑定を受けることになりました。そこで開口一番に言われたのは、「代々の御先祖様たちが今、とても喜んでいらっしゃいますよ」という一言でした。「え、どうしてですか?」「あなたの代で、ようやくお宅の家に掛けられた呪いが解けるからです」「それはやはり、家の先祖が関わる因縁ということですか?」「いいえ、厳密には違います。家系にまつわる怨念霊などが引き起こす霊障ではなく、明らかに神罰です」。
それから2週間後、当のハルカ先生が出張鑑定という形でわざわざ我が家まで来てくれました。家族との対面を終えた後、先生はすぐに家の外へ出て行きました。そこには私が事前に父に頼み込んで来てもらっていた土建業者のブルドーザーが待機しており、ハルカ先生が家屋の裏手に広がる廃耕地の一画を指差すと、その場所の土砂を少しずつ削るようにして掘り返し始めました。やがて穴の下から出てきたのは、朽ちた木材や石材などの断片でした。「これをきちんとお祓いした上で、新しいお社を建てましょう。それで全ては終わります」先生によれば、その場所には元々、屋敷神をお祀りした祠が建っていたのですが、江戸時代の中期に起きた安政地震と呼ばれる大震災の際に家屋ともども倒壊してしまい、当時の家の当主の勝手な判断でお社と鳥居の残骸を土に埋めて畑地にしてしまったとのことでした。
「お祀りされていた屋敷神がたまたま姫神様だったので、その祟りの行き先もこの家に生まれる女性へ向かったというわけです。ただ、こうした神様が本当にお怒りになったら一家全滅の惨事になりますから、そういう意味では手心を加えてくださったとも言えますね」
それからすぐ同じ場所に新しい祠を建造し、御神霊を入れ直していただく儀式も滞りなく済ませました。その後、私は母方の祖父の養子という形を取らないままあっさりと結婚しましたが、あれから5年経った今も主人は健在です。あえて悩みの種があるとすれば、3歳の息子のことだけでしょうか。父は私の息子を家の跡取りにすることを当然のように決めており、将来もし息子自身が「嫌だ」と言った時にどうすれば良いのか時々、主人と真面目に話し合っています。